QWERTY配列、活性化エネルギー、部屋の片付け(2020年12月19日の日記)

QWERTY配列は日本語の文章を書くのに向いていないとずっと思っていた。日本語をローマ字入力するなら、必然的に母音を2文字に一回打たなければならないが、「い」と「う」と「お」なんて近くにあって打ちにくいし、そもそも一文字打ち込むのに二回キーを叩かなければいけないのはどう考えても無駄だ(と言いつつこの文章もQWERTY配列ローマ字入力で書いている)。QWERTY配列が便利なのはQWERTYと打ち込むときだけだろう。少し調べてみると、英語の文章を書くときにも、この配列は最高だと言うわけではないらしい。もっと効率のいい配列がいくつか提案されているというが、まったく普及している様子は観測できない。改善の余地があるにもかかわらず、旧来の方法を使い続けてしまうことを表す、クワーティ現象(QWERTY phenomenon)という言葉があるくらいらしい。

 

こうなってくると、なぜQWERTY配列がいまだに使われているのか、疑問が生じる(実際、学生くらいの若い世代では、PCではなく、スマホフリック入力でレポートをやる人もいるようだが、いかんせん画面が小さい。フリック入力用の小型デバイスで文章を打ってPCの画面に表示するなんてことができれば便利かもしれない)。QWERTY配列が導入されていった経緯を調べてみると、大して議論があったわけでもなく、なんとなく決めたものがどんどん普及していってしまったというようなところらしい。ネットで調べたので間違っているかもしれないが。その初期の段階でならまだ効率のいい配列に修正できたかもしれないが、今は圧倒的な普及率なので、今更もう直せないということなのだろう。QWERTY配列にも利権なんてものがあるのかもしれない。

 

そんなことを考えていると、活性化エネルギーとの類似性に気づく。化学反応の途中では、不安定な状態を経るので反応の前後より内部エネルギーが大きくなる。その大きくなってしまった内部エネルギーと反応前の内部エネルギーの差が活性化エネルギーと呼ばれる。反応後の方が反応前より内部エネルギーが小さい反応でも、活性化エネルギーが大きければ反応は自発的に進まない。下り坂が途中で盛り上がっていて、ボールが転がっていかなくなるようなイメージと言ったら近いだろうか。炭素の同素体で、黒鉛よりも不安定なダイヤモンドが存在することの理由も活性化エネルギーで説明できる。

 

部屋の片付けをしようとするときに気が進まないのは、活性化エネルギーが大きいからかもしれない。部屋を片付けたあとはいい気分になるので、片付け自体は反応後に安定になる発熱反応のようなものだ。活性化エネルギーが大きい反応を進めるには大きく分けて二つの方法があると考えられる。一つは、反応前の物質の内部エネルギーを大きくすることだ。これを片付けの例に当てはめてみると、自分のやる気をあげるということだろうか。そのやる気の出し方については何も触れないのが残念な比喩だと言える。もう一つは、活性化エネルギーを小さくすることだ。触媒を用いることでこれは可能になる。片付けの心理的な抵抗を活性化エネルギーのようなものとして捉えるなら、片付けという行為自体を好きになることで可能になる。実際綺麗好きな人は、片付け好きなことが多いように思える。進みにくい反応があるとき、化学者は全く別の反応を複数組み合わせていくことで、本来の反応の反応前の物質から、本来の反応後の物質を得るということをすることがある。片付けをせずに、汚い部屋から新たに綺麗な部屋から引っ越すということだ。生命というのも、生まれる前という状態から、死へと変化していく反応の活性化状態のようなものなのかもしれない。

 

12/19 2020